トップ注目研究高精密医療・トランスレーショナル研究ユニット
カテゴリー 医学、基礎、臨床、ゲノム
代表研究者 髙田 康徳
関連する研究者   山口 修   山下 政克   増本 純也   竹中 克斗   杉山 隆   茂木 正樹   武森 信曉   丸山 広達   川村 良一

現在、多くの医療機関で、科学的根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine (EBM))が行われている。 EBMは主に大規模臨床試験の結果に基づいており、“平均的な患者”に対する“標準的な検査、治療”といえる。一方で、何割かの患者には有用でないという問題が生じる。この問題を解決するために世界中でprecision medicine(高精密医療)を推進するための研究が行われている。高精密医療とは、個人の遺伝子情報や生活環境についての詳細な情報を把握した上で、その違いを考慮し、特定の疾患にかかりやすい集団(サブグループ)にわけ、疾患予防や治療を行うことを指す。

高精密医療の重要な要素は遺伝子検査である。予防医学においても、遺伝子検査により、疾患の発症前に、ハイリスク者を抽出し、早期から生活習慣などに介入する試みがなされてきた。例えば、生活習慣病の代表である2型糖尿病は、遺伝因子に過剰な糖質の摂取、運動不足などの後天的な環境因子が重積して発症にいたることがほとんどである。これまでに、主として全ゲノム関連解析により100以上の2型糖尿病感受性の一塩基多型(SNP)が同定されてきた。しかし、主なSNPを全てあわせても遺伝性のせいぜい10%を説明できるにすぎない状況であり、残りは“missing heritability (失われた遺伝性)”と呼ばれている。この理由として“疾患の発症をclinical endpoint” とする phenotypeの解析(疾患あり、なしのcase control によるassociation study)が行われてきたことがあげられる。また、癌治療とは異なり、予防医学の観点からは、SNPなどによる遺伝子検査を用いた高精密医療の対象は一般住民(健常人)である。従って、“最終表現型”である糖尿病という“疾患の発症”ではなく、発症前のインスリン抵抗性や炎症、疾患特異的なバイオマーカーの変化といった定量可能な“中間表現型”の方がフエノタイプとして適切であると考えられるようになってきている。そのためには、まだ疾患の発症に至っていない(健常な)一般住民を対象とした前向き研究により、(1)遺伝、生活・環境因子から疾患の発症に至るパスウェイの途中に位置する特徴的な中間表現型を解明し、(2)これに影響を及ぼすSNPやメチル化などのエピジェネティクスの解析を行うことが疾患発症予知方法を確立する上で必須である。

5278img.png

我々は、愛媛大学の第二期中期計画から東温スタディ及び東温ゲノムスタディに取り組んでいる。これまでに、東温市の一般住民約2400名に健診を行い、詳細な生活習慣調査(食事、運動、喫煙、睡眠など)、代謝(糖負荷試験など)、心血管病、体力、認知機能等に関する定量化した広範なデータ、及び血液、DNA、RNA 、尿等のサンプルを収集した。さらに、2018年度には、5年間の前向き調査が終了し、リスク因子(遺伝や環境、血圧、肥満などの生活習慣)とアウトカム(糖尿病、心血管病、認知症などの新規発症)の因果関係を証明できる環境が整った。

そこで本リサーチユニットでは、遺伝子・免疫・代謝・心血管ネットワークをキーワードとして、これまでに共同研究の実績のある基礎と臨床の研究者が有機的かつ密に連携し、各分野の専門家が基礎・臨床研究から得た知見と既に収集している東温スタディ及び東温ゲノムスタディの臨床データとサンプルを統合した研究を行い、糖尿病、心血管病、認知症といったcommon diseaseの(1)疾患の発症に関連する感受性遺伝子 (疾患感受性SNP)や環境因子によるその修飾(メチル化などのエピジェネティクス)の同定、(2)遺伝、生活習慣・環境因子から疾患発症に至るパスウェイの途中に位置する疾患特異的な中間表現型(例えば、疾患発症前に変化するバイオマーカーやマイクロRNAなど)の同定・解析を推進する。(3)更に、これら(1)と(2)の因子に定量化した生活習慣・環境因子を加え、統合的な解析を行うことにより疾患の発症モデル・予測式を作成・証明し高精密医療の実現を目指す。

カテゴリー